2023.09.15 お役立ち情報
〇日本発の「コンビネーション製品」の存続に「黄信号」
医薬品と医療機器を組み合わせた「日本発のコンビネーション製品」が、制度の狭間で存続の危機を迎えている。CTやMRIなどの画像診断や、冠動脈ステントの留置時などに用いる造影剤の“シリンジ製剤”と造影剤注入器だ。シリンジ製剤は、過去30年、薬価下落が続き、採算ギリギリに追い込まれ、造影剤とセット使用する注入器にも、その影響が及びつつある。
シリンジ製剤の製造販売元は造影剤メーカー。仮にシリンジ製剤の供給に支障が生じるようなことがあれば、注入器メーカーは大打撃を受ける。ただ注入器は技術料包括医療機器。注入器メーカーが、シリンジ製剤について「不採算品再算定」などを申請し、薬価の引き上げを求める権限はない。組み合わせて使用することで、医療安全などに貢献してきたにもかかわらず、医薬品と医療機器という縦割りの評価制度の狭間で、注入器メーカーに打てる手は限られている。
◆画像診断に不可欠な造影剤の薬価下落 注入器メーカー「打つ手なし」
医療安全や医療の質向上につながると、臨床現場で高く評価されている、造影剤のシリンジ製剤と注入器だが、高い評価とは裏腹に、シリンジ製剤は後発品の登場などを受け、価格競争の沼にハマり、薬価が下落トレンドをたどっている。ここ数年、収益性の低下などを背景に、シリンジ製剤の主要な製造販売元も、第一三共からGEヘルスケアファーマに、エーザイからゲルべ・ジャパンに変更されるなど、事業の撤退が続く。
◆薬価は30年前の約7分の1
2023年4月の薬価の中間年改定では、物価高騰や後発品の安定供給問題が浮上し、不採算に陥った全1100品目の薬価を引き上げるという“神風”が吹いたが、これはあくまで一過性。汎用規格のシリンジ製剤の薬価は、30年前の薬価を100とすると、約7分の1(2万3730円→3384円)に沈む。神風が止んだ後のシリンジ製剤の薬価が維持される保証はなく、安定供給に不透明感が漂う。
問題を難しくするのは、一体不可分の他のコンビネーション製品と異なり、シリンジ製剤と造影剤注入装置は、別々の製品としてそれぞれ医薬品、医療機器として扱われることにある。
◆DESなどの製販は原則1社 公定価格も高めの設定
医薬品と医療機器を組み合わせたコンビネーション製品は、予め薬剤を充填済みのプレフィルドシリンジや、心臓の血管の再狭窄を防止する薬剤をコーティングした薬剤溶出型ステント(DES)など、医療現場での手間の削減や使い勝手向上、治療成績の向上につなげている。
これらコンビネーション製品は一体不可分であることから、その用途に応じて、前者は医薬品として、後者は医療機器として扱われ、原則として製造販売元は1社で、行政とのやり取りなどもスムーズだ。
一方で、シリンジ製剤と造影剤注入装置画像診断は、上記のコンビネーション製品とは一線を画し、それぞれが個別に存在する。つまり造影剤を充填したシリンジ製剤は医薬品、患者の体重などに応じて、造影剤の注入量やスピードをコントロールして患者の体内に投与する注入装置は医療機器として扱われる。
◆薬価下落で造影剤の安定供給に危機感
とはいえ別製品でありながら、セットで開発・使用することで、臨床的な意義を高めていることから実質的には一体不可分の関係にあることは間違いない。セット使用によるベネフィットとして、共同開発したICタグをシリンジ製剤に付与することで、患者の禁忌(アレルギー情報)などへのアラート機能を搭載、注入器にシリンジ製剤をセットすることで、シリンジ製剤の種類や有効期限などを表示することができるような、医療安全に貢献する機能も備える。
仮に薬価が下がり続け、シリンジ製剤がなくなるようなことがあれば、医療現場では瓶製剤から薬液を移し替えるといった手間がかかるほか、移し替えに伴う異物混入などのリスクも再燃する。2024年度診療報酬改定で、臨床現場や患者の安全に貢献する「日本発のコンビネーション製品」の安定供給をどう担保するのか、柔軟な対応が間違いなく求められる。また何故造影剤の薬価が下落し続けているのか、メカニズムを解明することも必要になる。
MEジャーナル記事より